清廉潔白な乙女

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 ひゅっ、と背筋が凍る。  何だ? 今の、声。  周りを見回しても、誰も居ない。 『あなたの消したい罪はなんですか?』  こもっていて弱々しい、低めの声。女感がある。もしかして、乙女か――? 『あなたの消したい罪はなんですか?』 『あなたの消したい罪はなんですか?』 『あなたの消したい罪はなんですか?』  声は鳴り続ける。俺の脳内を支配する。悪寒が止まらない。 「ちゅ、中学の時に、いじめていた過去です」  耳を塞ぎ、思わず敬語になって返事をする。そんな自分を笑う余裕はなかった。膝が震え、今にも尻を打ちそうだった。  一分ほど経ってから、また声が聞こえる。 『どうして消したいのですか?』  どうして――?  最近、一緒になっていじめていた奴等が行方不明になって、死んでいくから。頑張ってアイツ等とは違う進学校に入り、心機一転し、良い成績を取ってきたのに、自殺した子をいじめていたグループにいたと知られたら、推薦に響くかもしれないから。  確かに、私利私欲の塊だ。  清廉潔白とは、程遠い。  けれど、だからこそ、こんなこと正直に言ったらいけないのは分かる。  乙女は今、俺のことを試しているんじゃないのか?  だったら、間違えるな。余計なことは、言うな。 「後悔しているからです」  心にも思っていないことを、口にした。小さな声で、思い詰めたように。
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