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プロローグ
がたごとと揺れる牢屋。
男たちの怒号が飛び交う外。
馬に繋がれた牢屋の中で、私は目を閉じていた。
ここには沢山の女たちがいる。
私と同じ、身体を売った女たちが。
初めての仕事で、これから自分の身に振りかかってくる不幸と不運に、すすり泣くことしか出来ない少女。
反対に、私よりも長くこの世界で生きてきた女は、その豊満な胸を惜しげもなく見せびらかし、外にいる男たちの期待と興奮を煽っている。
しかし、中にはほとんど死にかけている女もいた。
その瞳には、どんな感情も宿してはいない。
絶望も、恐怖も、希望も、興奮も、過去さえも捨てた女だ。
彼女は、既に女として熟し切っていた。
ここでは、女としての命が全てなのに。
恐らく、これが彼女の最後の仕事なのね。
だけど、その後は……?
男たちに股を開き続けた身体は使い物にならず、その精神さえ殺されているというのに、更に生きていく理由まで失ってしまったら。
それ以上のことは考えなかった。
忍び寄る未来への可能性に、私は気付かぬ振りをしたのだ。
ただ目を閉じたまま、今一時の暗闇に浸っていた。
そんな醜くも美しい女たちの、むせ返るほどに濃厚で甘い香りが四方に充満し、私はゆうるりと笑った。
そう。ここが、私の生きる場所なのよ。
しばらく後、馬が歩みを止める。
すると、女たちの香りに混ざり、汗と血と殺戮の匂いが私にも届いてきた。
これは、男の匂いだ。
血と欲に飢えた、男たちの匂いだ。
その匂いに釣られ、女たちの匂いも僅かに変わる。
恐怖する匂いもあれば、反対に興奮する匂いもあった。
そうして、私は瞼を上げる。
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