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ああ、この日が来ることはわかっていた。男の子が私に言う。
「おうちの人の声が聞こえるよ。集中してごらん」
私は目を閉じた。
ピッ、ピッという耳慣れた機械音に混ざって家族の声が聞こえる。
そこは長い長い時間を過ごした病室。
気配で分かるが、目を開けることはできない。
「ああ美空、どうしてこんなことに」
パパ、明るく私や家族を励ましてくれてありがとう。たまに言ってたおやじギャグも大目に見るよ。
「美空、がんばってくれよ」
お兄ちゃん、ずっとママを独り占めしちゃってごめんね。かっこいいお兄ちゃん、大好き。
「美空ちゃん、起きてちょうだい」
ママ、本当にありがとう。これからはおしゃれして、楽しいことたくさんしてね。
みんな愛してる。
「……失礼します」
先生の声。私の目を触っている。
この前、看護師さんに紙と鉛筆を借りて書いたメモを見せた。
『延命治療はしないで下さい』
先生の目にさっと涙の膜がかかった。
「美空ちゃん。僕は美空ちゃんの言うことは何でもきくから、このメモは預かるけど、」
メモを白衣のポケットにしまって小さく呟いた。
「君はまだ17歳だ。助けたい、君を」
ありがとう先生。
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