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連れてこられたのはやっぱり倉庫室の前だった。あの時と同じ状況だけど、二人の気持ちが入違ってしまっている。紗子の恋は、やっぱり実らない。悲しいけれど、それが現実なのだ。
和久田が口を開くのが怖くて、紗子から話し掛けた。
「……おめでとう。……和久田くんが思い直してくれて、良かったわ。……振り向いてくれない人を追っかけてるよりも、好意を持たれる方が心地良いもんね」
紗子の言葉に、和久田が眉間に皴を寄せる。
「……なんのことだ?」
「隠さなくても良いよ。私もう知ってるのよ」
尚もなにを、という和久田は、知ってて紗子に言わせようとしているのだろう。和久田が好意を寄せてくれていた間に振り向かなかった、これが意趣返しか。
「涌沢さんと付き合ってるんでしょ? 私知ってるのよ」
紗子が手を握って言うと、和久田はたっぷり五秒黙って、それから、はあ!? と素っ頓狂な声を上げた。
「知ってるのよ。私見たもん。昨日、新宿駅の構内の硝子張りのカフェでデートしてたでしょ。私、見たもん」
「新宿の? 硝子張りのカフェ?」
和久田は記憶をたどるようにして視線を廊下の天井に向けた後、ああ、と気づいたように瞬きした。そして直ぐに紗子に詰め寄った。
「デートじゃねーし。そんなことよりお前だよ」
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