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「お兄ちゃんってば〜!返事してよ!」
僕はようやく朋希を振り向いた。
「·····朋希、うちでは飼えないから、誰か飼える人を探さないとね」
「·····えっ?」
僕はその猫を大事に持ち、幼なじみの家へ向かっていた。
「こうちゃん家に行くの?」
「そうだよ」
幼なじみで、小学校から高校までずっと一緒にいた西村航太の家に向かっていた。
彼は愛猫家だし、既に家に3匹の猫がいる。
·····うちは母ともう1人の弟が猫アレルギーだし、頼れるのは航太だけだ·····
「でも、こうちゃんって実家帰ってたっけ?」
「·····あ」
朋希に指摘されて気付いた。
僕は高卒で働いているが、航太は進学してどこかの私立大学に行っているんだった。
「·····いなかったらどうするの?」
「その時はその時かな·····とりあえず行ってみよう」
4月の末、しかも金曜日だ。
帰っていない可能性もある·····
「·····お兄ちゃん、こうちゃんの家ってもう一本向こうじゃないの?」
「·····うん」
仲は良いが、あまり家を行き来することは無かったため、久々だと道を間違えそうになる。
「お兄ちゃんって方向音痴ってやつなの?」
「·····まあ、否定はしないよ」
猫はすっかりウトウトしていた。
このド田舎でもかなり目立つ豪邸·····西村家の前に着いた。
朋希がチャイムを鳴らすと、相変わらず若々しい航太のお母さんが出てくる。
「あら、かずくんじゃない!久しぶりね!ともくんも大きくなったね〜!航太なら帰ってるよ?どう?」
ノリが若いのも変わらない。
「あ、帰ってたんですか」
「かずか?!」
会話が聞こえたのか、オレンジ色の頭をした航太が飛び出してきた。
「·····次はみかんか」
「お兄ちゃん?!」
年末も変な色の髪をしていたが、また変な色になっていた。何を目指しているのだろう。
「よお!かずにも連絡できなくてごめんな」
「·····別にいいよ」
「んで、俺に会いに来たの?」
思わず朋希を振り向いた。
「黒猫拾ったの!こうちゃんの家なら·····っておもったんだけど·····」
朋希は嫌がらずに要件を話してくれた。
「あー、いいよ。でもうちも色々あるから少しの間なら·····」
「ありがとう!」
「あ、いや·····どういたしまして。なんなら、今度ゼミだからその時にでも里親探すよ」
僕と朋希は、小さな黒猫を航太に渡し頭を下げて帰っていた。
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