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その日の夜、僕は彼を思い出して眠れなかった。
·····頭は良かったが、世間知らずにも程があった。
·····下品な話で盛り上がる奴もいる中で、1人だけ全くついていけない異様にピュアな子だった。
·····お母さんと仲が良くて、反抗期が無い·····
今いたら、どこで何をしていたのだろうか。
「どうして·····」
背が高くて細くて色白で、髪は黒の直毛、吸い込まれそうなくらいに澄んだ暗い色の瞳、無邪気な笑顔。
今思い出しても儚い見た目だった。
美人だったな。
モテるのに自覚は無く、自己肯定感は低い方だった。
·····色々なことを思い出してしまう。
彼は文字通り遠くに行ったのだ。
誰にも手が届かない、この先何年も経たないと再会出来ない世界に。
―
高校2年生の最後の試験の日、彼は学校に来なかった。
というか、来れなかった。
その日の朝早くに病院に運ばれ、日付が変わって太陽が昇る前に·····
丁度17歳になった日だった。
実質、彼は誕生日を迎える前に逝った。
―
「·····はぁ」
涙が溢れてきた。
僕は元々泣き虫だが、ハタチを過ぎてから泣くのは初めてかもしれない。
·····もしかしたら、生まれ変わりで黒猫になって、それで僕に会いに来てくれたのかな·····
だとしたら、嬉しいなあ。
「·····ありがとう」
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