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2.西村航太
西村航太は、この辺りの田舎ではかなり有名だった。
祖父が有名人で、父は社長というお金持ちの家の長男だからだ。
―
和生たち2人が去って行くのを見てから家の中に戻っていた。
子猫は温かい。落ち着いている様子だ。
「かずくんは、何て?」
「公園で拾った子猫を押し付けてきた、ってところかな〜」
母は俺の手の中で落ち着く子猫を覗き込んだ。
「可愛いね」
「ああ。里親探すから」
「見つからなかったら、飼ってもいいよ?」
「·····しらすたちに悪いよ」
俺は幼なじみの和生から猫を預かってしまった。
猫は好きだが、オスの猫なら既にうちにいる。
しらすはメスの白猫で、まぐろはオスのハチワレ、うにはメスで明るい茶色。
·····まぐろは凶暴だからなぁ·····子猫に何かあったら·····
「うーん·····」
オス同士のナワバリ争いは面倒だ。
みんな落ち着いてきたのに子猫が現れたら·····また花瓶が割れそうだ。
「決まるまでは俺の部屋で飼うから」
「そう?わかった」
しかし·····子猫はとても可愛い。
机の上に乗せてもすぐに暴れないから気に入った。
「お前可愛いな」
ついつい猫と遊んでしまう。
·····眠くなってきたな·····
·····
「おーい!」
大きな声が聞こえ、俺はビクッとしていた。
大学生になったばかりの妹は不在だが、まだ高校生の弟は家にいる。弟の不機嫌そうな声が響く。
「何?」
「にいちゃん?卒論は終わったのか?」
「·····まだ」
「早くやれよ。ちゃんと4年で卒業する気あんの?」
「あ、ああ」
弟の蓮也は高校2年生の末っ子だが、兄弟で1番しっかりしている。
まあ、それは俺がここまで自由奔放だからその反動かもしれない。中和は出来ていると思う。
「猫触ってる暇があったらパソコン触れよ」
「うるさいな·····」
成績はいつもギリギリ。
中学生の頃までは勉強しなくても出来たから、勉強の仕方がよくわからないのだ。
就活は思うように進まない。
ヤケクソで髪をオレンジにしたが、同級生に笑われて終わりだった。
論文も正直ダルい。
パソコンが未だに苦手なのもある。
「んあ〜!」
·····それよりも、猫と遊びたい。
子猫はズルい。
可愛いに決まってる!
「ほれ!猫じゃらしだぞ!」
「ンナァー」
再び遊び始める俺がいる。
子猫は再び興味を示してくれた。
―
·····猫、か。
猫が好きな友達、いたなあ·····
もう死んじゃったけど。
―
「こんぶ、俺に顔見せろよ」
「ニャ?」
俺は勝手に子猫をこんぶと呼んでいたが、何か話しかけると反応してくれた。
「·····可愛いな」
まだ目の色が灰色に近い。
生後2ヶ月は経ってなさそうだ。
「お前可愛いな!本当はうちの子にしたいんだけど·····ごめんな。でも、しばらく俺が相手してやるからな!」
こんぶは俺に擦り寄った。
·····なんか、やっぱり似てるな。
「よしよし!あとで小魚食べさせてやるからな」
·····うん、似てる。
―
あの子は泣き虫だった。
高校生活の始めから、男なのに泣くなよ!って思うくらい泣いてばかりだった。
繊細すぎて情緒不安定で、そのうち泣き出すのも見慣れて、最終的には俺や和生に泣きついてきた。
·····あんな泣き虫な男は初めて会った。
だって、和生より泣き虫なんだもんな·····
―
もしこうして猫になって会いに来たというのなら、謝りたいことも話したいことも沢山ある。
·····大丈夫。叶わない夢だとわかっている。
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