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翌日、俺はこんぶを連れて家を出た。
「見つかればいいけど·····」
里親を探すとは知らない子猫だ、俺にスリスリして甘えてくる。
「うちで飼うの難しくてごめんな·····あと2年早かったら飼えたかもしれないけど·····」
2年前なら俺は都内で一人暮らししていた。
学生が猫を飼うなんてとんでもない話だろうけど、実家でなければ飼えたはずだ。
·····実家の、平均10歳の猫たちに子猫は刺激的すぎる。
「·····こう見えて心配性なんだよ、俺」
―
その日、俺はゼミの中で猫を飼えそうな人を探した。
でも·····誰もが首を横に振った。
「ニャーン」
「よしよし·····お腹空いたよな」
随分と人懐っこくて、おとなしい子猫だった。
·····やっぱり似てる。
「ニャーオ」
しかし·····よく喋る猫だな。
それも似てるかもな·····
―
里親は探せなかった。
母は飼ってもいいと言ったけど·····妹が帰ってきたら怒りそうだ。
弟も呆れるだろう。
親父は何も言わない気がするけど。
「どうしよっかなー」
今までの猫たちは、俺が道端で拾ってきてしまったのだ。妹は犬が飼えない理由を俺の所為にしている。
「猫可愛いのになぁ」
途方に暮れつつ駅に向かうと、懐かしい人とすれ違った。
「·····航太か?」
振り向くと、幼なじみの純がいた。
「純·····?!」
純に会うのは俺の手の中の子猫·····に似たあの子のお通夜以来だった。
純は声を掛ける勇気のある人だからありがたい。
「元気か?」
「·····おう!」
純は小学校から高校まで一緒だった。
でも、純は高校在学中に唯一の家族であるお母さんを亡くして、高校を辞めたのだった。
「久しぶりだな〜!」
お母さん伝で知り合いの家に居候し、高校の卒検まで取った話は風の噂で聞いた。
「·····おう」
幼なじみと言っても、そこまで仲が良いわけでもない。かと言って仲が悪いわけでもない。
「急いでるのか?」
「いや、全然」
頭も顔も良くて、性格は竹を割ったような真面目な奴で、運動神経も良くて、大抵の事はなんでも出来ると言った絵に書いたような優等生だ。
完璧すぎて気持ち悪いと思ったことがある。
ただ、真面目すぎて頭が固いところもあった。
でも、今目の前にいる純は昔より優しくなった気がする。
「よかった、じゃあお茶でも·····」
·····俺と違って純は社会人だ、しかも4年目くらい。
学生じゃないし、もしかしたらこの猫を飼えるかもしれない。
純についていくと、静かな喫茶店に着いた。
「突然誘っちゃったし奢るよ」
「いやいや·····それは悪いよ」
小学校から高校時代の思い出話をしていた。
嫌いかもしれないと思っていたのは俺の一方的な思考であり、純にとって俺は幼なじみ以外の何でもないようだった。
「あの時が1番楽しかったよな」
純は懐かしそうに笑った。
·····真顔も笑顔もムカつくほどイケメンだ。
「·····そうだな」
·····嫉妬してばかりでごめん·····
「·····あの、純さぁ、猫飼える?」
最後に猫について聞いてみた。
飼えるかどうか、飼えそうな人がいるかどうか·····
「猫かあ·····」
純も多分、あの子を思い出したに違いない。
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