2.西村航太

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店を出てすぐ、俺は純に子猫を見せた。 「ちょっと·····どこから出してんだよ」 純が驚くのも無理はない。 俺はをトートバッグの上の虫かごから出していた。 子猫だから余裕で入ったんだ、ガーゼのハンカチを4枚は敷いたし、さっきまで寝ていたようだし····· 「·····この子なんだけど、飼える?もしくは飼える人が近くにいればいいんだけど·····」 純は何も躊躇うことなく子猫に触れた。 子猫は本当に人懐っこくて、俺にやったのと同じようにゴロゴロ言ったり、スリスリしたりとリラックスしていた。 「·····可愛いな」 「だろ?でも·····うちだと飼えそうになくて」 迷うだけ無駄だった。純は決めるのが早い。 「そっか、じゃあ飼えそうな人探すよ」 「純は?」 「うちのアパート、動物禁止なんだ。それに一人暮らしだし、もし面倒見れなかったら怖い」 純が怖いと言うことはあまり無い。 正義感の強い奴だから故にそう感じるのだろう。 「そうか·····でもありがとう」 「いいよ」 駅のそばで純に猫を渡した。 「大丈夫、任せろ」 「急にごめんな」 そして純と別れ、俺は実家へと帰る電車に乗り込んだ。 終点まで行ったら乗り換えだ。 ― 純に渡して正解だった気がする。 たしかあの子は高校生になって初めて話したのが純だと言っていたし、仲が良かったし····· 電車の窓から見える太陽は赤く、空は暖かそうなオレンジが広がっている。 黄昏るのに丁度いいかもな。 ― 家に着く頃は既に真っ暗だった。 ·····どうしてこんな田舎に住んでいるのかわからない。 街道があって高校があって·····そこまでは栄えているのにな····· 街道を外れて山のそばに来ると本当に何も無くなる。 小学校も中学校も1クラスしか無く、クラスに10人いるかどうかレベルだった。 そんなだから、どちらももう廃校した。 廃校が決まった途端、更にこの辺りの人口が減った。 「·····みんな何してるのかな」 思い出がどんどん消えていってしまうような、そんな悲しい気持ちになっていた。 ― 帰宅すると、母と弟の言い合いが聞こえる。 いつものことだ。 ·····俺の方がグレていた気がするが、母とそこまで喧嘩した覚えはないな····· 「ただいま」 「こうちゃん!聞いてよ〜!れんがね―」 母はすぐに飛び出してきて、何か言いに来た。 元カノが愚痴って来た時に似てる····· 「ちげーよ!ババアが勘違いしてんだよ!」 面倒だ。 子猫と遊んでる方がずっと良いわ····· ― 喧嘩も収まり、親父が帰宅し、主に蓮也と母が喋るだけの夕飯の時間も終わり、蓮也はすぐに部屋に行って·····いつも通りの時間が過ぎて行った。 「こうちゃん、子猫は?」 「·····純に預けた」 「純くん?!たしか今·····中野のあたりだっけ?」 「そうだよ。帰る途中に会ったから」 預けたはいいが、子猫のことが気になってしまう俺がいる。 「こんなところより、都心の純の方があの猫にとっていい里親を探せそうだろ?」 「そうね」 ·····あの子猫、今度は長生きしてくれればいいな。
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