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3.大瀧純
大瀧純は天涯孤独の状態で地元を飛び出していた。
今年22歳にして社会人5年目となる。
―
幼なじみの航太から子猫を受け取ってしまった。
因みに、アパートでの動物禁止というのは嘘だ。
責任を負うのが怖かっただけだ。
·····なのに、「任せろ」なんて言ってしまった。
矛盾してる。
航太はいつ俺の下手な嘘に気付くのだろう?
そして今、子猫は俺の目の前にいる。
「·····よしよし」
真っ黒な毛並み、幼いマズル、少し白いヒゲ。
家にあるダンボールにタオルを敷き、猫をそのダンボールに入れた。
·····ずっとあんな小さい箱に入ってて窮屈だっただろうからな。
「ニャニャ」
「ん?」
独りになってから、独り言が増えた。
その流れなのか、今はこうして(通じるわけがないが)猫と会話をしてしまう俺がいた。
「お腹空いたか?」
猫は擦り寄ってきた。
·····猫は冷めた性格だと聞くけれど、随分と人懐っこいな。
「·····これだけ人懐っこいなら、誰かに大事に育ててもらえるな」
飼う自信が無いのを、なんだか申し訳なく感じた。
本当はここに居てほしい·····だけど·····俺には無理な気がする。
「そこがいいのか?」
猫は俺をよじ登り、肩の上に乗ろうとしたが滑り落ちた。
「膝の上でもいいか?」
猫を触るのは久しぶりだ。
小学生の頃、学校の近くの空き地で航太と発見して触って以来かな。
·····そのハチワレの猫が航太の家で飼われたところまでしか知らない。今どうしてるのかな。
小学校も空き地も無くなってしまった今では埋もれた記憶に近い。
航太はまだ覚えているだろうか。
「兄弟はいるのか?」
「ニャアー」
通じないのに会話を進める俺がいた。
酒の缶を開けると、猫は興味を持った。
酒の匂いを嗅ぐ姿が、なんだか綺麗だった。
·····酒じゃなければ画になるだろうな。
「気になるか?」
猫は目をキラキラさせ、酒ではなくて俺を見た。
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