3.大瀧純

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寂しさを紛らす為のテレビは今日は要らない。 ― 金曜日の所為、酒の所為、俺は猫に話しかけていた。 俺なんかに興味無いであろうに·····。 「·····さっきから思ってたんだけど、誰かに似てるよな」 猫は相変わらず俺をじっと見つめていた。 「·····俺は生まれ変わりとか生き写しとか、あんまりそういうの信じない。でも、その顔がなんか懐かしい」 猫は首を傾げた。 ·····気の所為かもしれないけど、それが懐かしい。 ― 初めて会ったのは、高校の入学式だった。 教室には同じ中学のメンツと、あとは知らない人しかいない状態。興味は特に無かった。 あと15分で先生が来るであろう時間になった時、あの子が入ってきた。 ·····よく覚えているよ。 今、俺の目の前にいる子猫みたいな顔をして俺を見ていた。 目が合うと、ぎこちなく微笑んだ。 第一印象は「美人」だ。 ― 目を覚ますと、猫が俺のお腹の上で眠っていた。 猫と話していたことは覚えてるけど·····記憶はあまり無い。 「(そっか、寝落ちしたんだ)」 猫は夢の世界。 起こすのが可哀想になってきた。 カーテンを破いたわけでもないし、リモコンのボタンを押したわけでもないからな。 「·····悪いな、俺は用事が·····」 ゆっくり猫を抱えてどうにか起き上がると、猫は目を覚ました。 「·····俺よりもマトモな人に飼ってもらおうな」 小さめのダンボールに猫を入れ、ゆっくりと大きな布で包んだ。 「こんな俺でごめんな」 猫を飼えそうな人は心当たりがある。 勿論、この猫を俺が飼えば早い。 家族がいない俺には本当は吉報だったのだけど····· ― 両親が大阪でデキ婚して、俺が生まれた。 父親はDV男だし、母親はメンタルがやられて俺をネグレクトした。 結局、俺が3歳になる頃に離婚し、実母に連れられて愛媛の実母の実家に2年間住んでいた。 その間に実父は刑務所に行き、実母は自殺。 祖母は俺を快く思っていないので物置に監禁····· それを助けたのが育ての母であり、祖母の末妹。 5歳から長いこと育ててもらった。 でも結局、高校2年の冬に病気で亡くした。 家族ってなんだ? ·····俺には何が何だかわからない。 猫のことを幸せにできる自信が怖いくらい無い。
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