掌のパウダー

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「不幸な人間ほど向いてる仕事なんだよな」  星野と名乗ったおじさんは、僕が無職と知ると、人手が不足しているからすぐにでも雇いたいと言った。仕事の詳細は教えられないが、決して怪しくも難しくもない配達業務だと聞かされた。 「どう?やってみる気ない?」  口元だけで笑いかけられ戸惑ったが、何も答えない内に「ありがとう」と固く握手された。  事態をよく飲み込めないままだったが、どのみち仕事のないプーの僕に断る理由はなかった。 「形式だけ、形式だけだからね」  そう言って渡された面接時間と住所の殴り書きメモを手に、翌日、卒業式以来のスーツを着て、雑居ビルの一室に足を運んだ。  当の星野さんはいなかったが、社長を名乗るスーツの男性は、僕の一連の不幸話を聞いた後、勢いよく立ち上がり、こちらを指差して高々と声を上げた。 「なるほど、採用!」
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