掌のパウダー

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 今日の配達先は、渋谷区千駄ヶ谷5丁目のハイツ。事前情報では、二十代後半の女性、大手企業に勤めるOL、3回目のご利用。2時間の注文を受けた。  指定通り夜8時にお届けに上がった。社名はどこでどんな風に聞かれているかわからないから、配達先では絶対に口にしてはいけない。インターホンを鳴らし、相手が出たら合言葉を交わす。 「水瓶座。お届けに参りました」 「アクアリウス。どうぞ、開けます」  持ってきたボックスを揺らさないように抱えて玄関先にたどり着くと、お客様は手招きして出迎えてくれた。 「こんばんは。少し狭いですけど、どうぞ入ってください」  通された部屋は10畳ほどのワンルームだった。今夜の配達に合わせたのか、部屋は片付けられていた。  僕は手順通りに部屋の真ん中を探し、2シーターのソファの前でLEDランタンを点けた。 「ここを中心にセットしてよろしいですか」  お客様は頷いて、事前の案内通りシーリングライトを消すと、待ち遠しそうにソファに座った。
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