掌のパウダー

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「改めまして。本日はご利用ありがとうございます。担当の星川です。ごゆっくり満点の星空をお楽しみください」  僕の「星川」という名前は、星野さんが付けた。お客様により僕たちのサービスを身近に感じて頂くためと言っていた。  足元のランタンを消し、企業秘密のボックスを慎重に開いた。  勢いよく噴射した白いガスが数十秒掛けて部屋に充満していく。この間に決して身動きをしてはいけない。ガスの行手を邪魔しないように静かに待つ。  テーブル、テレビ、本棚、観葉植物、エアコン、シーリングライト、お客様。部屋の全てが白い靄の中に消えていった。 「まもなく晴れてきます。リラックスしてお待ち下さい」  僕はいつものように掌に載せたパウダーを口元に寄せ、息を吹きかけた。  次第に夜空の薄雲が晴れていくようにガスが消えるのと同時に、明るさの異なる小さな無数の光が部屋中に浮かんだ。 「綺麗」  どのお客様もこの瞬間は溜息混じりにそう呟く。 「いかがでしょうか」  返事がないのは、際限ないこの宇宙の中に佇んでいる証拠だ。しばらく余韻を楽しんで頂いた後、頃合いを見て僕も隣に腰掛ける。  そしてお客様の手を握る。  僕はこんな会員制プラネタリウムの配達人をしている。
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