掌のパウダー

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「星川君どう!仕事は慣れたかい!」  千駄ヶ谷の仕事を終えて事務所にボックスを戻しに行くと、社長の銀河さんがいた。スキンヘッドに真っ黒のサングラスを掛けている。 「はい、今日の分!ありがとう!」  給料は現金で渡される。僕はこの仕事がどんなルートで舞い込んできて、何人で回していて、幾らで配達しているのか知らない。でも客層はそれなりにお金を持っていそうな女性がほとんどだ。  封筒の中には、一万円札が3枚入っていた。 「ありがとうございます。お疲れさまでした」  今のところ週に2回ほど社長からの電話を受けて配達に出かけている。  あの装置の原理は絶対に明かせないと初めに言われている。僕の役目は、何も疑わずにボックスを指定の配達先まで運び、プラネタリウムをお客様と手を繋いで眺めることだ。  スカウトされた時に星野さんが言っていたとおり特に難しさはない。  でも帰り道は決まって途方に暮れる。  名前も知らない女性の手を握り、なんらかの元素が結合して生まれる光をただぼんやり眺めても、僕自身の幸せは見出せそうにない。  
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