掌のパウダー

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 とはいえ、季節が一巡すると、僕はすっかり不幸だった頃の自分を忘れていた。  どこに配達してもすべてのお客様はもれなく感激する。その瞬間に立ち会えることが、この特別な仕事の醍醐味なんだと思うようになっていた。 「今日はこれも持っていってちょうだい!」  ボックスとは別に銀河社長に手渡された袋を僕はポケットに入れた。  今日の配達先は、渋谷区千駄ヶ谷5丁目のハイツ。事前情報では二十代後半の女性、大手企業に勤めるOL、4回目のご利用。3時間の注文。  見覚えのある届け先だった。 「しし座。お届けに参りました」 「レオ。お入りください」  出迎えた女性は僕の顔を見ると「星川さん、お久し振りです」と微笑んだ。 「僕のことを覚えて下さっていて光栄です。それから本日は格別のご注文を賜り、誠にありがとうございます」  僕は部屋の中心を確認し、2シーターのソファの前にボックスを置いた。
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