掌のパウダー

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 思わず手をついた先にテーブルがあり、体は支えられたが、勢いでパウダーを袋から放り出してしまった。 「星川さん、大丈夫ですか?」  お客様が心配そうな声で立ち上がった。それに反応しようと口を開きかけたが、僕は辺りに広がった光景に固まった。 「「すごい…」」  僕たちは同時に声を発した。  さっきまで浮かんでいた星が四方八方に飛び交い始める。僕がパウダーを放ってしまった天井からは、雨のように星が降り注ぎ、僕たちに触れた瞬間スパークして、跡形もなく消えていく。 「こんな流れ星見たことないです」 「僕もです」  これを流れ星と呼んでいいのか分からない。僕たちは呆気に取られて立ち尽くした。  でも、無限に降り注いでは消える青白い光のシャワーを浴びていると、少しずつその異様さが愉快に思えてきた。  それに何故か急速に酔いが回るように気分が高揚していく。 「ドキドキする」 「はい、なんだか僕も」  ハイになった僕たちは、お互いの顔を見るだけで笑いが止まらなくなった。  とにかく嬉しくて、幸せで、涙が止まらなくなって、抱きしめ合ったりした。  生きていてよかった。不幸なんて続きやしない。今夜こうして星を浴びているのだから。  そんな感覚をふたりで泣き笑いしながら分かち合った。
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