第1話 初めての交信

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第1話 初めての交信

令和2年午後4時46分。学習塾からひとりの 黒髪をストレートに腰まで伸ばした少女――蒼井 優愛(あおい・ゆあ)が出てきた。 塾の駐輪場に停めてあった自転車を動かして、そのままサドルに乗った。塾から移動した先は公園だった。公園の前で自転車を停め、近くにあった自動販売機で缶ジュースを買うと、円形状の公園の端のベンチに座って少しずつ飲む。 全部飲み終えてゴミ箱に空き缶を捨てようとした時。優愛は何かに気付いた。その何かとは、人が1人入れるくらいのアクリルの大きな箱。 優愛が特に気になったのは、その中に入っている、糸電話の片っぽだけのが2つあることだった。何故2つとも片っぽしかないのだろうかと疑問に思う優愛だったが、興味本位で近寄り、箱――秘密基地の中へ入り、女の子座りをして、いざ糸電話の紙コップを手に取り、耳にぴたりと付け、もう1個の紙コップを口元にあててみた。 すると―― 「……せよ。こちら神崎 陸斗(かんざき・りくと)。応答せよ。こちら……」 「うわぁ!!」 どこかの誰かの声が聴こえた優愛は驚いて紙コップを投げて、床に落ちた紙コップを見つめる。 (しばら)く見つめてから、もう一度紙コップを手に取り、相手の声を聞く。 「もしもし……?」 「こちら神崎陸斗。さてはこちらの声が届いているな? 応答せよ」 「こちら蒼井優愛。これはいったいどうなっているの? 応答せよ」 「俺にもよくわからない」 「わからないよね、そうだよね」 「ただ、俺が考えるに、俺らは異なる世界線上に居ながら、その世界線を超越して交信することが出来ているのだろう」 「世界線、かぁ。何だかよくわからないけど、とりあえず自己紹介しようよ。こちら蒼井 優愛(あおい・ゆあ)。17歳。趣味はゲームすること。応答せよ」 「こちら神崎 陸斗(かんざき・りくと)。こちらも趣味はゲームをすること。どうやら俺らの共通点は趣味がゲームであることらしいな」 「そうね。じゃあ、お互いの好きなゲームについて紹介し合おうよ」 「良いよ。どっちが先に紹介する?」 「陸斗くんからで良いよ」 「俺の特に好きなゲームはパソコンで遊べるゲームで、タイトルは[平穏な日々]で、ジャンルはパズル。トランプカードを使ったゲームに勝つと、1から10ピース貰える。そちらは? 応答せよ」 「こっちにはパソコンで遊べるゲームはないな。代わりにスマートフォンのアプリで遊べるゲームならあるよ。RPG系のゲームで、タイトルは[勇者と魔術師の冒険]」 「スマートフォン、それ、多分俺の住む世界線にはないな。ゲーム自体は面白そうだけど」 「そっか、やっぱり私たちは世界線を超越して交信しているんだね」 「そうみたいだな」 「ねぇ、陸斗くん。好きな食べ物とか飲み物とか教えてよ」 「好きな飲み物? メロンソーダかな。食べ物だったら、ハンバーグかな」 「私もメロンソーダ大好き!! 私はハンバーガーが好き」 「ハンバーガー? ハンバーグみたいなものか?」 「ううん、全然違うよ。いつか、陸斗くんと2人でハンバーガー食べれる日が来れば良いなぁ」 「俺もそう思う。すごく気になるし。その、ハンバーガーってやつ」 何気なく、優愛は鞄の取っ手に巻き付けた腕時計を見る。 「ごめん、陸斗くん。私、そろそろ帰らないと」 「わかった。また今度交信しよう」 「バイバイ、陸斗くん」 「バイバイ、優愛」 優愛は紙コップを置くと、すぐに帰った。 秘密基地の外の空は曇っていた。 優愛が帰って数時間後、秘密基地に突如モニターが出現する。
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