第2話 優しい声

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第2話 優しい声

翌日の8月7日午後4時。今日も塾の授業を終えた帰りに公園に立ち寄る。 自転車を停めて、また秘密基地の中へ入る。すると、昨日までなかったモニターの存在に気付く。 それでも優愛(ゆあ)は昨日と同じように、口元と片方の耳にそれぞれ紙コップをあてる。 今度は優愛が聞いてみる。 「こちら蒼井優愛。こちら蒼井優愛。応答せよ」 すると、すぐに返答があった。 「こちら神崎陸斗。こちら神崎陸斗。昨日ぶりだね」 「そうだね。昨日も楽しかったけど、今日も楽しいな、陸斗くんと話せるだけで」 この時、優愛は陸斗の優しい声に胸キュンして、人生で初めて恋をした。 その時、それまで真っ暗だった画面に、茶髪の、それはそれは美形な男子が現れた。 「わっ、え? 何々?」 優愛は驚いて後退した。それまでゆるゆるに緩んでいた糸電話の糸がぴーんと張った。 画面の向こうの男子も驚いている。 「もしかして、優愛?」 「陸斗くん、なの?」 しばし画面の向こうの陸斗を見つめる優愛。 陸斗も優愛のことをじっと見ている。 それまで女の子座りをしていた優愛は正座して言う。 「えぇと、改めて、蒼井優愛です」 「神崎陸斗です」 「「よろしく」」 先に話題を振ったのは優愛だった。 「あのね、陸斗くん。私、今日、塾に行く前に神社寄ったんだけど、その神社の池にね、亀がいたの」 「へぇ、どんな亀?」 「外来種か日本に元々いる種類なのかはわからなかったけど、そよそよ泳いでて、すごく可愛かったよ」 「そうなんだ? いつか見てみたいなぁ」 「陸斗くんは? 最近特に変わったことはなかった?」 「俺は特にないな」 「そうなんだ?」 「うん」 ――と、ここで優愛は()るものを見つける。 「ん? これは……?」 段ボールで出来たレバーがあった。 優愛はすぐに、陸斗の世界線にも同じものがないか聞く。 「ねぇ、そっちの秘密基地に、段ボールで出来た、レバーみたいなもの、ない?」 画面の向こうで陸斗が周囲を見回す。と、右下に視線を向けて、じっと見ている。 「あっ、あった。何だこれ」 「こんなの、昨日はなかったよね?」 「なかった、なかった」 ここで陸斗が提案をしてくる。 「試しに、引いてみるか、このレバー」 「私はやめておこうかな、何かこわいし」 「大丈夫っしょ。ね、一緒にレバー引いてみようぜ」 急に陸斗が上機嫌になる。 「俺、こうゆう未知の領域に足を踏み入れる感じするの、すっげー好き! なぁ、一緒にレバー引いてみないか?」 優愛の背に緊張が走る。 そっとレバーに手を伸ばし、いざ掴んでみる。 「これを、引くのね」 そして2人は同時にレバーを引く。 レバーを引く瞬間から恐怖心で目を閉じていた優愛。 ゆっくりと(まぶた)を開くと、アクリルの壁のむこうに、こちらと同じような箱――秘密基地が出現したのが見えた。 優愛はおそるおそる立ち上がり、自分の秘密基地の外に出て、1メートル先の秘密基地に近寄る。 すると、向こうの秘密基地からも人が出てきた。陸斗だと、優愛にはすぐにわかった。 空は晴れていた。
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