桜のみち

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桜が自然に目を覚ますまでそのまま眠らせるように、起きたら食客扱いで部屋を与えるように女中衆に頼んでから大坂城に登場した。 医師を派遣してくれた事の礼を伝えるため、徳川家康の詰所を訪れると、こぼれんばかりの笑顔で迎えられた。 礼の言葉もそこそこ、高虎は桜について何か手がかりはないか全てを話し、彼が使っていると噂の伊賀者のことを尋ねてみる。 徳川の軍事的機密なのではぐらかされると思っていたが、案外彼は興味深そうに頷きながら話に耳を傾けていた。 「なるほど…」 家臣団がうろつく所からさり気なく離れた一室に高虎を招き入れて、家康はこう続けた。 「そのお話、陰陽寮に尋ねてみるのはいかがですか?」 「え?」 予想外の発想に思考が固まった。 「いや、どうも陰陽師が使う人形に動きが似ていると思いまして。ただの思いつきですが」 言われてみるとあながち外れでもない気がする。 東海一の弓取りと言われるこの男の知識量も限りがない。 「でも一体誰が、何のために私の所へ送り込んだのか…」 何人もの主君を裏切って生き延びた。だから武士の刺客なら心当たりがありすぎるが、そのような妖しいものを送られる心当たりがない。 「誰かの差し金というより、はぐれた人形かもしれませんな」 人のいい笑みを絶やさないまま目の前の男は続ける。 「その者に名前はつけましたか?」 「ええ、呼ぶときに不便ですから適当に…」 「ではもう問い合わせは必要ないですかな」 何度も頷いて、男の笑顔はもっと深くなっていった。
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