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一日の終わり、寝所に入る前に六畳ほどの小部屋で2~3行の日記と、最近念願かなってようやく借りることのできた小説を書き写すのが日課だった。
文机の近くに1本の蝋燭の明かりだけで仮名文字を追う。
乱れのない整えられている髪、冷酷そうな眼。
傷だらけの体は無駄のない引き締まった肉体。
指がないのは武功の証。
さらさらと筆がすべる音しかしない静かな空間で、ふと人の気配がした。
左腕のすぐ近くにある刀を引き寄せる。
筆を置くのとほぼ同時に鞘に滑らせて空間を斬る。
「…!」
確かに手応えはあった。
「あはは」
『それ』は壁を足場に浮かぶように見下ろしてくる。
赤色の狩衣に、有髪の尼のような肩でそろえた黒髪、前髪も眉にそってまっすぐ切りそろえた、童子の姿をした不審な者。
「何者だ」
どこの間者か、頭をかすめるのはそれだった。
「虎って名前のくせに侍の感じしないの、変なヤツ」
子どものくせに妖艶に笑う。
壁を足場にしていた子どもは、ふわり、と浮かんで降りてきた。
虎と呼ばれた武将は刀の先を突きつけながら相手を観察する。
女の子に見える顔だが男の装束を着て笑っている。
「赤く染まる姿の目立つ間者なんか見たことないな」
急に馬鹿馬鹿しくなった男は刀を鞘に収めた。
その名を、藤堂高虎といった。
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