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子どもが動いても蝋燭は揺れない。 障子に影絵が写るのを警戒して高虎は静かに吹き消した。 青い月明かりだけがふたりを浮かびあげる。 「名前は?」 今日一日、葬儀に出て疲労感は限界まで達していた。 切れ長の眼の下に黒いくまがある。 正直何も考えたくない。 「ない。つけてよ」 子どもは頭が回らない時に難しいことを要求してくる。 「…さくら。花の名前で充分だろ」 壁に背を滑らせて座る。それでも立ったままの子どもと視線の高さは変わらない。 背が高いのが彼の特徴だった。 「いま書いてる物語の登場人物の名前がよかったな。若紫とかさ」 不満げな子どもの、教養の高さに恐怖をおぼえて思わず胸ぐらをつかんで畳の上に叩き落とした。 「それ読んじゃいけないヤツでしょ?」 痛みを感じないのか子どもは自分に組み敷かれても笑っている。 その時子どもが男だと気がついた。
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