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さくら
子どもの容姿は琵琶法師が語る禿に似ていた。
だがあれは作り話の物語だ。
真っ赤な狩衣を着て都を練り歩く間者がどこにいる。
目立ちすぎてその姿を見かけたら誰もが口を開かない。
「細川藤孝は古今伝授されたから読めるけどあんたはダメでしょ。よく借りれたね。いーけないんだ」
「黙れ」
他の武闘派の連中などは到底知り得ないことを「さくら」は言う。
「お前、朝廷からの使者か?」
「さあね。当ててみなよ」
生意気に赤い唇の口角を上げて笑う子どもを見て、忘れていた疲労感が襲ってきた。
「疲れた。頭が働かない」
手を離してまた壁に背をつけて目を閉じる。
「羽柴秀長の葬式で気ぃ使いすぎだよ。あんたが弔問客なのにいつのまにか仕切る羽目になってそりゃ疲れるよ。お人好し」
まるで見てきたようにさくらが言う。妖気、あまり信じていなかったがこいつはそうなのだろうか。
「殺されたくなかったらその口を閉じておけ」
そう言いつつも疲労が限界にきた。
「…どっちがだよ」
子どもを脅したまま、高虎は眠りの底に落ちていった。
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