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まわりの明るさと体の痛みで目が覚めた。
ー夢だったのか?
「おはよう、虎」
勝手に虎呼ばわるするな、うんざりしながら後ろを振り返ると、膝を抱えて座っている「さくら」がいた。
「まだいたのかお前」
「寝首かくまで帰らないもーん」
だったら今寝ていた時が好機だったのに、人の寝顔見て何をしていたのか。
真面目に考えるのも疲れる。その間に屋敷勤めの女中衆が障子の向こうからおずおずと声をかけてくる。
「二人分の朝食を持ってきてくれないか。あと子ども用の着替えを」
てっきり夜伽の女とすごしていたと思っていたのだろう、外で動揺している雰囲気が伝わる。
「俺が悪趣味だと思われるだろう。せめて地味な格好で目立たないでいろ」
「虎も喪服のまま寝るなよ」
ここで殴り殺してもいいが子ども相手に大人気ない行為は雅ではないな、そんな事を考えながらさりげなく写本を隠した。
ずき、と頭に痛みが走る。
若かった頃の思い出が頭をかすめた時、目眩がした。
女中衆と「さくら」の悲鳴が聞こえた気がしたが、まぶたを開く力は残っていなかった。
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