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頭が痛い。
寝所ではなく、この書斎に布団をひいて寝かされていた。
「虎」
枕元に心配そうに自分を覗き込む「さくら」がいる。
水色の水干に着替えて硝子の器に入っている水にそっと視線を送った。
「キラキラ」
息子の奥方を通じて細川藤孝から送られた舶来品だった。
「…飲ませてくれないか」
きのうから飲まず食わずで喉が乾いていた。
「ちょっと待って」
薄い紙から灰色の粉を水に溶かしている。
「堂々と毒殺か?」
冗談で言った。多分漢方薬だろう。
「医者を送ってくれたよ、あのタヌキ」
口が悪いのは癖なのか、悪気はなさそうだが他人が聞いたら誤解を招く。
半身を起こそうとするが、大柄の大人を支える力は「さくら」にはなかった。
「自分で起きてー、お願い重いムリ」
「起きれない、無理、頭痛い」
ちっ、と舌打ちして「さくら」は自分の口に灰色の水を含んで高虎に近づいた。
赤い唇が重なる。
「…まっずいこれっ…」
さくらが手の甲で口を塞いでつらそうな顔をした。
「良薬は?」
「口に苦し」
やっぱり「さくら」はそのへんの庶民ではない教養の高さを持っていた。
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