温もり

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 大切な奴がいなくなることで、こんなにも大きな穴が心に空くなんて、俺はあの時まで知らなかった。  そんなことを思いながら、手に持った缶ビールをぐいっと飲み干し適当に放り捨てると、カラン、という空っぽな軽い音を立てて缶が地面に落ちた。  その音を聞きながら、俺の心も落ちたらこんな音がするんだろうなと思った。  二年前。  俺は、大切な人を失った。  あまりにも突然で、あまりにも理不尽すぎる別れだった。 「……嫌なことを、」  地面に転がる缶を踏み潰すと、缶はあの日の俺の心のように、グシャリと音を立てて潰れた。  そう。きっとあの日、俺の心は潰れてしまったのだ。  俺の大切な人──彼女を襲ったストーカー野郎に、踏み潰された。   彼女の命と共に。  俺は缶から足を離し、それを拾うこともなく歩き出した。  歓楽街に入ると、色んな女に声を掛けられた。今まで関わってきた女達が言うには、パッと見は怖い面をしているが、よく見ると俺は割りと整った顔立ちをしている、らしい。  だから、正直女に困ったことはなかった。  声を掛けてくる女のうちから、適当に美人な奴を選び、そいつの肩を抱いて歩き始めた。  本当はこうやってくっついて歩くのは苦手なのだが、女はこういうのが好きらしいと知ってから、意識してできるだけくっついて歩くようになった。  すると、気分が良くなった女は、簡単に身体を許す。  あまりにも簡単で、空っぽで、つまらない、でも必要な俺の日常だった。
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