カレーとライス

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台所にある大きな窓から夕日を見てるとまた熱が上がってくるのが分かった。  目を空に、耳だけテレビに向けてると、テレビの音が頭にキンキン、キンキン響いてくる。  さっきまであんなにおもしろかったC-3000とRDの戦いも『キー』とか『ギャン』とか『〜ぃ』とつく音だけ耳にささる。 「ただいまぁ~。あぁ、疲れた、疲れた。」  そう言って、おばあちゃんが帰ってきた。真っ黒な服だ。おばあちゃんは色が白いから頭と手だけがゆらゆら歩いて来る。 「どう、気分は?」  おばあちゃんが僕のひたいに手を当てながら聞いた。ひんやりした手が気持ちいい。 「どこ行ってきたの?」 「おじいちゃんにさよならしてきたのよ。」 「おじいちゃん、どこいったの?」 「そうねぇ・・・。どこ行っちゃったのかねぇ・・・」 「ふぅ〜ん。おばあちゃん、おなかすいた。」 「はい、はい。すぐにごはんにしようね。」  テレビではC-3000がオクトラル周波の波動の波の鋭角を使い、真っ赤なRDに最後のとどめをさしたところだった。  今日はカレー。だから土曜日。  四角のテーブルに僕とおばあちゃんが座り、お皿が三人分。 「おばあちゃん、おじいちゃんいつ帰ってくるの?」  さぁねぇ・・・  いつ帰ってくるのかねぇ・・・  おばあちゃんのカレーはとってもおいしい  給食のカレーみたいに具がちっちゃくない。ジャガイモもニンジンもお肉も、ぜんぶ大きい。だから、ジャガイモならジャガイモで、お肉ならお肉で、口の中がほふほふっといっぱいになる。  お風呂に入って、歯を磨いて、寝る前の少しの時間、僕はいつもおじいちゃんとおばあちゃんと、いっしょにテレビを見る。  でも今日はおばあちゃんだけ。  いつもは、ふかふかのソファに座るのはおばあちゃんと僕で、おじいちゃんは僕らの横にある、ふわふわの一人椅子に一人で座ってる。  今日はいない。  テレビはいつもといっしょで、キラキラ、キラキラ、している。      ※  なんだか頭が重い。  あの人が死んで、告別式、葬式、そして今日の納骨・・・  次から次へと慌ただしく日が過ぎていく。  ふと輝斗の様子が気になって寝室に行く。ぐっすり眠っているけれど、額の髪が汗で張り付いて、 顔はまだ赤い。  起こさないようにそっと髪をなで、台所に戻る。  いつものようにビールとコップを肘掛け椅子の前に置いてから、洗い物にとりかかった。  洗い物を済ませ、ことわってから、先にお風呂に入った。  シャワーだけのカラスの行水だけど朝からの疲れが無数の水玉の中に溶け出していって、なんとも気持ちがいい。  居間の横の夫婦の寝室で鏡台に向かう。鏡を見ながらゆっくりブラシをあてていく。  シャンプーの香が部屋にひろがり、あらためて夜だと思う。  鏡にはテレビの裏側が、そして、肘掛け椅子が、いつものごとく映っている。         ※ 「今日は幼稚園あるの?」  僕が聞くと、キュウリを切ってたおばあちゃんが、「今日は日曜日だからお休みよ」と言いながら僕の口にキュウリを一枚くれた。  ソファに座ると日曜日の朝の光がちょうど顔に当たってまぶしくて、目を閉じた。  もう体は熱くない。  さっき起きたとき、体中ぐっしょり濡れていて、おねしょしたかと思って泣いていると、おばちゃんが着替えを持ってきてくれた。服を替えるとさっぱりしてお腹もすいてきた。  靴下をはいて部屋を出るとおばあちゃんはもう台所でキュウリを切ってた。  光の中で目を閉じると、瞼の向こうに水草が見える。閉じたまんまで目だけ動かすと、水草がゆらゆら動くのがおもしろい。 「ごはんできたわよ。」  僕が座って、おばあちゃんが座る。  テーブルの上にはごはんとお味噌汁と大きなお魚が三つずつ置かれている。  おじいちゃん、いないの?  そうねぇ・・・  どこ行ったの?  どこかしらねぇ・・・    まぶしい日曜日だった。 〈カレーとライス 完〉
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