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自分自身に魔法を使う。それは通常、回復魔法か補助魔法に限られる。しかし、火魔法は攻撃を主体とした魔法。火魔法で縛っている今の状況ではあり得ないはずだが……俺の知らない魔法なのだろうか。
風が揺れる。雪が舞い、二人の間を再び吹雪が覆った。
「ステラさん──いいえ。ステラと戦ったのもこの場所だった。ナナキ、あのとき私は勝つために無茶をした。自分自身にも大きなダメージがある魔法を使って。でも、今回もそうなるかもしれません。この魔法は私自身のしがらみから創られた魔法だから」
震える手を胸に押し付ける。アミーシャは叫ぶように大きな声で魔言を唱えた。
「猛炎!!!!」
放たれた火はたちまちアミーシャの体を包み込んでいく。
「なっ……!」
それは絶句してしまうほどの現象だった。一瞬にして全身が炎にまみれブスブスと黒い煙が立ち上っていく。炎によって雪が溶けて蒸発していくのならば、白い蒸気を発するはず。黒い煙ということは何かが燃えているということ。すなわち、それはアミーシャの体だった。
その証拠に焔の中からアミーシャの苦渋の声が漏れ聞こえてくる。
「アミーシャ! 何やってるの!?」
ナナキの声が裏返った。当たり前だ。こんな魔法はあり得ない。自分自身を発火させるなんて、ただの自殺行為だ。
「なんてことを……! 誰か水の魔法を! ジブールの火を消すんだ!!」
マハーチェが声を張り上げると、何人かの学生が焦ったように返事をする。すぐに動こうとしたのは、アミーシャの取り巻きの一人だ。
「アミーシャ! 今、助けるから! 水──」
「やめておけ!」
肩を震わせると取り巻きは詠唱をストップさせる。驚いた顔をしてこちらを見た。
突然、後ろから強引に右肩を引っ張られた。
「何を言ってる!? タイゼン! 訓練は中止だ! ジブールを救わなければっ!!」
「マハーチェ、落ち着け」
なだめようとしたが、マハーチェの目は吊り上がったまま。今にもゴーレムで攻撃をしてきそうだった。
「生徒が危険な状態にいる! こんな状態で落ち着いてられるか!!」
「待て!」
戦いを中断させようとするマハーチェを止めようと振り上げた腕をつかもうとしたとき、ハッキリとしたアミーシャの声が聞こえてきた。
「この魔法は、魔法コントロールが必須の魔法です。自分の限界はわかっているつもりです。体が炎に焼かれているように見えますが、実際には服を着るように体のまわりに纏わせているだけです」
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