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「しかし、ジブール! その魔法は危険過ぎる!」
確かに一歩間違えれば、何かの拍子に魔力のコントロールを誤れば即座に体が蒸発していってしまってもおかしくはない。それだけの繊細かつ高度な魔力制御の必要な魔法。
「好きにやらせてやれ、マハーチェ」
マハーチェの肩に手を置く。猛吹雪の中というのに冷や汗をかいていた。
「しかし……!」
「いざとなればすぐに止められる。塔を降りてすぐそこは学院だ。治療も容易にできる。いつも守っているだけでは生徒は成長しない。そうだろ?」
「状況が違う! 今は守る必要のある場面だ! 彼女らは強い。だが、まだ学生なんだ!」
アミーシャがこちらを見ている。ナナキも動揺を表には出さないようにして視線を向けた。遠くからでもわかる。二人はもう決意を固めていた。おそらくはきっとステラと戦ったときからそうなのかもしれない。
「ナナキとアミーシャはすでに決意を固めている。それにアミーシャがなりふり構わず魔法を使っているんだ。出したカードを今さら戻すことはできないはずだ」
頭をかきむしるとマハーチェは、困ったようにうめいて目を瞑った。
「わかった。だけど、短時間だ。勝負が長引くようならすぐに止めに入るからな!」
「──ありがとうございます。先生」
炎に焼かれているにも関わらず丁寧にお辞儀をすると、改めてアミーシャはナナキと向き合った。
「ナナキ! 見ての通りこの魔法は、攻守同時に行うことのできる魔法です! 少しでも判断に迷えば、すぐにその身が燃えることになる! 私の魔法を破るには本気でかかってきてください!!」
アミーシャは直進した。移動するそばから雪が溶けていく。一枚の絵画として見るのなら綺麗な一枚になることだろう。だが、実際には燃える炎は荒々しく、風に乗る黒煙は汚かった。アミーシャの過去を反映しているかのように。
「くっ……。本当に大丈夫なのか? タイゼン。何か起こる前にタイゼンが止めてくれよ」
「無論だ。それは約束しよう。しかし、マハーチェ。結果はもう明らかだ」
「? それはどういう──」
走るアミーシャを前にしてナナキは妙に落ち着いていた。それは、やることがわかっている者の目、これから起こることを知っている者の目だ。アミーシャの魔法に動揺した気持ちはもうどこかに消えて、心にあるのは一点だけ。
「アミーシャ。それはダメだよ。その魔法は、今のアミーシャにはもう必要ない」
ナナキは自分の前に召喚していたゴーレムをかき消すと、両腕を大きく広げた。
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