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珍しく雨が、降っていた。窓辺から見る限りは雨粒が見えるほどの大量の雨で、クラスメートの中には手を叩いて喜んでいる子もいた。ただ、そんなこととは何の関係もなくーー。
「絶対に、嫌だ!」
「大丈夫だよ〜。今回の試験は結構難しいって言っていたし。ナナキ以外にもクリアできなかった人がいるかも」
「いや、カルルカ! それは励ましているようで励ましていないからね! 私は落ちる前提になってるよ、そうなんでしょ!」
「あら?」
「『あら?』じゃないよ、もう、天然なんだから〜あはは、かわいい〜じゃなくて!」
試験の結果は今朝のホームルームで発表されると言われていた。つまり、今、今だ。こんな日に限ってお腹が痛くなるどころか気持ち良く起きれるし、朝のシャワーで鼻歌なんか歌ったくらいにして、サンドイッチと紅茶なんていうこれ以上ないくらいの優雅な朝食を済ませてしまったりなんかして、なんて絶好調な朝を迎えてしまったんだ。
「カルルカ! 記憶を消す魔法とか!」
「ん〜、ないよ!」
「じゃあ! ほら、時間をすっ飛ばす魔法とか!」
「ないね!」
「じゃあ、ほら、ほら、あの、なんていうかーー」
「全部ない! もし、ナナキが試験を無いものにしたいのだったら、ナナキを無くすしかないよね〜」
「な、無くす?」
「そう! 私の魔法でナナキの身体を粉々にするの! そしたら、もう試験のことなんて気にしないでいられるでしょ?」
なんて恐ろしい提案を……。キラキラな笑顔で言ってのけるようなことじゃないぞきっと。かわいいけど。爽やかなブルーの、そして大きな瞳がニコってかわいいけど。
「あはは、それじゃ、この世界からいなくなっちゃうからね〜やめとくかな〜」
「そう、残念!」
冗談だよね。そうだよね。ときどきこうやってカルルカのことが全然わからなくなる瞬間があるけど、たぶん、そうきっと冗談に違いない。だけど、この素敵な笑顔はもしかしてーー。
「はいはい、席について」
ーーなどとカルルカの真意を探り切る前に、会話は中断させられた。ドアを後ろ手にしめた先生が教壇に上っていく。
「それじゃあね。ナナキ、きっと大丈夫だよ。ナナキみたいにクリアできなかった人がいるよ」
「いや、だからね、それは……まあ、いっか」
カルルカとバイバイして一番後ろの窓に面した自分の席へと向かう。振り向いた途端に不躾な視線をぶつけられたのは、きっと勘違いじゃない。
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