2人が本棚に入れています
本棚に追加
少女の正体
「遊馬‥‥これは‥‥?」
僕は少女を指さし、遊馬をおもいっきり、睨みつける。黒い長髪に二重のぱっちりとした瞳薄い紅いろの唇。これはまるで‥‥。
「だから、ゆいちゃんだよ。ほら、ゆいちゃん薫に自己紹介して!」
と遊馬はあたかも当然のようにゆいちゃんに自己紹介をすすめた。
「そんなことを聞いているんじゃない!!!俺が聞きたいのは、どうして彼女があの人‥‥いや、葉月に顔がそっくりなんだってことだ!!!」
僕は遊馬に怒りを覚えながら、叫んだ。いつ冷静じゃなくなってもおかしくないくらいに怒りを覚えていた。だって葉月は‥‥もう‥‥。
「まぁ、そんなに叫ぶんじゃねぇよ。確かにゆいちゃんは葉月ちゃんと似ているが正真正銘別人だ。」
遊馬はやけに真剣な顔で言った。それだけ葉月のことは僕にとっても遊馬にとっても大事な存在だった。しかし、納得がいかないのは事実でやはり葉月なような気がしてしまう。
「なんで‥‥なんで、葉月じゃないと言えるんだ!!」
僕は叫ぶ。ゆくあてのないこの想いをもう二度と伝えられないこの想いを吐き出すように。
「落ち着け!!ゆいちゃんが怯えてる。このことはちゃんとあとから話す。だから今は‥‥ゆいちゃんの話を聞いてやれ。」
遊馬の目線の先には不安と恐怖に怯えるゆいちゃんの姿があった。その瞬間自分が今してしまったことに対する罪悪感が心を支配した。
「その‥‥ごめん。ちょっと取り乱し過ぎた‥‥。」
俺はたどたどしい口調で謝った。
心の整理ができてなかったとはいえ、初対面の人にこんな姿を晒すなんて‥‥ほんとに僕は馬鹿だ。
「あの‥‥大丈夫ですよ!!その‥‥葉月さんって方のことは知りませんが、お二人にとって葉月さんがとても大切なお相手だったということは伝わってきましたから。」
彼女はそう言って困ったように笑った。その仕草や口調は葉月とは全く異なるものだった。やはり、彼女は葉月ではないのだと自覚する。
「ごめん‥‥。ありがとう。」
僕はそう言って、肩を落とした。本物だと本気で思っていなくても、どこかで葉月が彼女として生きているのではないかと期待してしまう。こんな自分が嫌だった筈なのに‥‥なんだろうかこの気持ちは‥‥。なんだか胸のあたりが騒がしいような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!