存在証明のパラドックス

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存在証明のパラドックス

  硬質(こうしつ)な振動に揺られながら僕は眠っていた。 規則的(きそくてき)に響くガタンゴトンと言う音と振動(しんどう)。 無機質な振動音のBGMに揺られ僕は目を覚ました。 僕が目覚めて最初に目にしたのは鉄の床。 僕は座席に座ったまま眠っていたようだ。 嗅覚神経を()す腐った臭気(しゅうき)。 ずきりと頭が痛む。 やたら重い空気が胸を圧迫(あっぱく)していた。 僕は気分が悪くなり、 前の背もたれに頭を押し当てもたれかかって、 うつむいた。 (のど)が乾燥で焼きつく。 前の背もたれの床下から、 血のような赤い液体が僕の足下に流れて来ていた。 僕はその目の覚める(よう)警戒色(けいかいしょく)の赤に、 どっきりとして首を上げた。 窓から流れる見知らぬ情景(じょうけい)。  そこは電車の中。 窓の外は(あお)一色の深海(しんかい)。 深海の中、透明チューブの中を電車は走っていた。 500Mおきくらいに深海の中に設置された、 凱旋門(がいせんもん)に似た門を(くぐ)り抜ける(たび)に、 (にぶ)い振動と音が響いていた。  いつから僕はここにいるのか?  なぜ電車に乗っているのか?  どこに向かうのか? それに答えてくれる者はいなかった。 全てが深海の闇の中に沈んでいた。 鼻を刺す()びた腐敗臭(ふはいしゅう)にむせて辺りを見渡すと、 電車の中は血の海だった。  (いた)る所に飛び散った赤、赤、赤。  鮮血(せんけつ)()められた世界。  心の余白(よはく)に流れ込む死の臭い。 現実の生々(なまなま)しさを(さら)し見え隠れする、    死体    死体    死体 そこには殺人狂(サイコパス)原風景(げんふうけい)が広がっていた。 生々(なまなま)しき死に(いろど)られたその光景(こうけい)固唾(かたづ)をのむ。 そのあまりの光景に言葉を失い、 遅れてやってきた、はやなる動悸(どうき)が、 死の恐怖を実感させた。   汗ばむ(ひたい)。   強張(こわば)る体。 僕は死の(おとず)れに敏感な草食動物のように、 物陰(ものかげ)(おび)える稚魚(ちぎょ)さながらに、 間近(まぢか)で見つめる死に(おび)えていた。   思い出せ!   思い出せ!   思い出せ! 近づく死の足音に(おび)え、僕は必死で記憶を辿(たど)る。 だがどうしてここにいるのか、 その経緯(いきさつ)はおろか、 自分の名前さえ思い出せない。 ただどうしようもなく恐怖だけがそこにあった。 乾燥した肌がチリチリと痛む。 死の恐怖が残像が、胸をしめつけ、 目眩(めまい)と吐き気が襲ってきた。  
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