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とある北の国では、国民全員がマフラーをしています。
雪国で寒いからというのもあります。しかし冬はもちろん夏も、王様も兵士も巻いているのです。人前ではマフラーを巻くのがマナーなのです。
しかし例外は一人だけ。その国の姫様はマフラーを巻きません。巻きたくないのです。
姫様は細かな編み込みの髪にして豪華なドレスを着ています。その格好のままお城の廊下、曲がり角に隠れていました。
姫様の瞳は獲物を見つけた猫のように大きく開き、獲物の二人連れの兵士を見つめます。兵士は日課の城内巡回を雑談しながら行っているところでした。姫はその二人の、マフラーをバックノットに結んだ方に狙いを定めます。
そして一瞬の隙を見つけ走り出し、バックノットのマフラーに飛びつき、体重をかけて引っ張ります。
するとマフラーとともに兵士の首がごとりと落ちました。
「やったー!」
姫様は飛び上がって喜びます。ぴょんこぴょんこと飛び上がっているうちに、姫様の頭もころんと落ちました。しかしそれは予想内の出来事なので両手でしっかりと受け止めます。
「もう、また姫様だ! マフラーを剥ぎ取る遊びはやめてください! 首まで落ちてしまうでしょ!」
ごとりと落ちた兵士の首は床の上でぷんすか怒りながら、そう文句を叫びました。首と胴が離れても言葉が喋れます。だってこの国は【首無し族の国】なのですから。
この国の人達は頭と胴が離れるものです。胴体のない頭は物事を考えられるし、頭のない体は自由に動かせます。首有り族という、頭と胴が離れれば死ぬという人達とはずいぶんと違います。
なので首無し族は首有り族から恐れられ、長く迫害されてきました。しかし首無し族だって意思疎通のできる、感情や知性のある生き物です。
首無し族は国としてまとまり、首有り族と仲良くできるよう和平交渉をしていました。そして今、首無し族と首有り族は戦争をせず平和になりました。
ただし平和のための犠牲は大きなものでした。
まずは国民すべてがマフラーを巻き、首有り族のように振る舞うこと。首がころころ転がってはひっつくという光景は首有り族からしてみればトラウマものです。マフラーを巻けば首と胴は多少動いても固定されます。だからマフラーで繋ぐのです。そのマフラーを無理に引っ張れば首は落ちます。
それでも見た目だけでも自分達と同じ種族であってほしいというのが首有り族の要望でした。
そしてもう一つは首無し族が所有する鉱山で取れる貴重な鉱石を格安で売ること。首無し族の城の近くには珍しい鉱石がざくざくとれる山があります。とても固い土の中に埋まっているため取りにくいのですが、平和のためです。首無し族は一生懸命鉱石を掘っては安い値段で首有り族に売りました。そうしてこの国の平和は成り立っているのです。
首無し族はそれが当たり前だと思っています。しかし姫様だけはそれをよく思わず、マフラーをしないし、人がマフラーをしていると剥ぎ取るというわけです。
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