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「まったく、なげかわしいわ。国を守る兵士がこんなにも簡単にマフラーを取られるなんて」
「姫様、そうは言っても姫様の不意打ちに誰も勝てるものはいませんよ」
首が落ちた兵士は首を元の位置に戻しながら泣き言のようなことを言います。姫様はよく、人のマフラーを剥ぎ取ってその首を落とす、といういたずらを行います。最初は皆されるがままでしたが、そのうちに慣れて対策が練られます。しかし姫様も同様に上達していきます。
そのイタチごっこにより今では姫も隙だらけな兵士を見抜く事に長けていました。物音なく距離をつめ、すばやくマフラーを奪うのです。
「お前はバックノットにするから姫様に狙われるんだ。俺みたいにフロントノットや王様みたいにピッティ巻きにするんだな。王妃様みたいなウィンディ巻きもいいんじゃないか?」
もう一人の、まだ首がつながっている兵士がそう言いました。それらの結び方は前に結び目がある巻き方なので、背の低い姫様では引っ張る事ができません。
「フロントノットもウィンディ巻きも関係ないわ。お父様もお母様の首も落としてやったもの」
「ひえ……なんて恐れ知らずな」
「だって、私達は首がとれる種族なのよ。なのに皆、首有り族の真似なんてして、恥ずかしいとは思わないの!?」
姫様は改めて自分の考えを主張します。
そうは言われても、姫様や兵士達が生まれるずっと前にマフラーを巻くという決まりが生まれたのです。兵士達は疑問に思ったことはありません。確かに夏は少し暑いこともありますが、首と胴体は繋がっていた方が動きやすいです。首を抱えるために腕一本使うところを胴体と繋げておけば手ぶらですみますし、首を無くすこともありません。暑さや種族の問題よりも便利さが勝っていました。
「だから私はマフラーを巻かないわ。マフラーを巻いてる人がいたらそれをとってあげる。それが本来の姿なんだから!」
姫様はそう言い捨てて走って逃げました。その行き先は謁見の間です。兵士達は姫を止める事をあきらめ、見送ることにしました。相手は幼いお姫様です。フレンドリーな雰囲気の国とはいえ、この程度のいたずらで兵士が厳しく叱る事はできません。そのうち姫様が大人になれば考えをがらりと変えて笑い話にできるだろう、とこの城の人々は考えていたのです。
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