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セヲォンは微笑みを崩さずヴォーグを見た。その笑みは多少人が悪く見える。
「お前こそよく分かっているな、俺を……」
ヴォーグは参ったとばかりに手を挙げた。それを見てセヲォンもにやりと笑う。軍の最高機関が軍議をしているというか、それはかつて遠い昔の話、たわいのない悪戯を計画していた、あの頃の幼いふたりに戻ったかのようであった。
ふたりは改めて向き合い、ひそひそと作戦を練り始める。静寂のなか、噴水の水しぶきとランタンの光だけがふたりの秘密の会話に耳をそばだてていた。
「どうにも落ち着かぬ」
それからひと月ほどの後、ヴォーグとセヲォンはガザリアに近い小さな村の宿屋にいた。
「落ち着かないのは奴の気配のせいか? それとも怖じ気づいたか?」
セヲォンは、ガザリア風の衣装に身を包みながらヴォーグに問いかけた。ヴォーグも大きな体をもぞもぞとさせながら、衣装を纏い、窓の外に目を向けている。
「何を言うか。俺が落ち着かないのはこの衣装のせいだ。どうも他国の服は着慣れぬ……」
「俺だってそうだ。仕方なかろう。奴をおびき寄せるにはガザリア人に扮せねば」
「そりゃそうだが……」
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