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空の色は漆黒、夜ふけの空気は冷たくふたりを包む。窓の外には、昼のうちに、宿屋の屋根にくくりつけたガザリアの旗が翻っている。もちろんふたりの手によるものだった。
「奴は来るよ」
暖を取ろうと薪を手にしたヴォーグに、セヲォンは言う。
「一昨日、ここの隣村がガザリア人に狙われた。あとはいつものとおりだ。どこからともなく奴が現れ、ガザリア人どもをこてんぱんにして追い出した」
ヴォーグは薪を握りつつ、視線を床に向けたまま黙っている。
「そうだ、いつものとおりだった。奴は賊を追い出すと、村の長に薬草のことを問いただした。そして長が知らぬと答えるやいなや、首をはねた」
ヴォーグの茶色い瞳が微かに色をなした。
「……そこまで徹底している奴だ。なにがそいつをそこまでさせているのが分からぬが、恐ろしい執念だ。だから、このガザリアの旗を見逃すはずは無い」
セヲォンはそこまで一気に話すと、腰の短剣に手を当てながら口をつぐんだ。ヴォーグは沈黙を守りつつ、部屋を見回していたが、ふと気がついて、セヲォンに尋ねた。
「あの部屋の隅にある瓶は、なんだ?」
「先ほど村の娘が、置いていった。この村で作った上等の酒だから、景気付けにでもとな。そんな気分でも無いから、放ってあるがな。飲みたいか?」
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