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ヴォーグの目の色が、今度ははっきりと変った。
さっと瓶の栓を開け、中をのぞき込み、鼻を近づけるやいなや、声を押し殺してセヲォンに告げた。
「こいつは……毒酒だ」
「なんだと!?」
「間違いない。国境警備の際、ガザリアより遠くの大陸から来たという商人から押収したことがある。あのときの酒と同じ匂いだ」
とたんにふたりの間の空気が冷えた。
身構えるまもなく、次の瞬間、天井を突き破ってきた槍がセヲォンの頬をかすった。同時に、どおーんと轟音がして天井が割れた。そこから次に見えたのは鋭い剣のきらめきだった。
その光を目に捉えヴォーグはとっさに手にしたままだった薪を投げ返すと、カーンと鈍い音がして、瞬時に薪がはじき返される。すかさずヴォーグも剣を抜き、天井から降ってきた刺客に立ち向かうべく体勢を整えた。
果たして、もうもうと上がる埃と木片の中に立っていたのは、緑色のマントに身を包み、亜麻色の髪を振り乱し、剣を構えながら、ヴォーグとセヲォンのふたりをにらみつける……背の低い青年……いや……違う。
「女!?」
驚きの声がセヲォンとヴォーグの口から上がった。
女はそれに応えず黙ったまま、今度はヴォーグの胸元めがけて剣を振り下ろしてくる。
女の鋭い眼光がヴォーグの目に映ると同時に、交わった剣が火花を上げた。
「ヴォーグ!」
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