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第三章 セシリアの提案
「父さん……ごめんなさい」
エスターは、もう駄目だ、死ぬと思うたびに心の中で父に詫びる。
ごめん、父さん。あなたに貰った命なのに。自責の念で頭がいっぱいになり、いつしか意識が暗転する。
だが、気が付けばエスターは生きている。
それを一体、あの日、村を出てから何度繰り返しただろう。そんなことを思いながら身を起こし、またエスターは歩き出す。いつも、いつもその繰り返し。思わず乾いた笑いがエスターの口を刻む。今回もそうだった。だがいつもとは、どこか勝手が違う。
エスターは慌ててぼんやりとした意識をこじあけるように周りを見回した。そこは薄暗い牢の中だった。塔の中らしい。その証にぼんやりとした日の光は遥か彼方の上方から弱々しくしか注いでこない。手足は枷がはめられていてうごかせない。これは何事だと起き上がろうとして鋭い痛みが体に走る。
そこで、エスターは背中の傷を突かれたことをようやく思い出した。そんなエスターの視界を衛兵らしい影が横切り、自分が目覚めたことを何者かに告げている。
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