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「女、女言うな。私にだって名はある」
「じゃあ名乗るがよい」
「……エスター。大陸の東、ズームグより流れてきた者だ」
「ズームグ!それはまた遠くから……」
ヴォーグが目を見張る。国境警備の要職に就いていただけに、その頭の中には人が知りうる限りの地理の知識が詰まっている。だが、その土地の名はあまりにも有名だった。それを示すようにセヲォンが言った。
「ズームグ。あの呪いの地か。だがとっくに国は滅びたはず、そうじゃないか、ヴォーグ?」
「あぁ、もう十数年前にズームグは国家としては滅びたと聞く。でも民は死に絶えたわけじゃ無いからな。ということで、お前はズームグの生き残りか?女……いや、エスターとやら」
「国の事なんて知らない。私は、首都なんか、みたこともない。ただそう呼ばれていた土地の出身だと言っているだけだ」
「それはよしとしよう。それより」
セヲォンが身を乗り出して眼光鋭くエスターを睨み付ける。
「ズームグの民、エスター、お前の狙いは何だ……?」
そう言いながら静かにセヲォンは剣を鞘から抜きエスターの首に近づけた。
「セヲォン!」
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