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「ヴォーグ、こいつは罪人だ。我が国の罪なき民を多数殺している。余罪だってあるかも知れぬ。それを質すのは王族たる俺の仕事だ。力ずくでもな。なんだったら、お前の背中のあの膿んだ傷口をもう一回切りつけても良いのだぞ……? エスターとやら」
しばしの沈黙ののち、エスターは観念した。
屈するのは恥だが、私はなんとか生き抜かねばならぬ。その一念が固く閉ざしていた唇をほどいた。エスターは自身の過去をゆっくりと語り始めた。
塔の中に差し込む光がいつしか夕焼けに赤く染まり始めた頃、エスターの身の上話は終わりを告げた。
「それで……お前は薬草を追い求めているのだな、病を癒やす薬草を」
セヲォンがしばしの沈黙を破り、エスターを問い質すかのように言った。エスターは話疲れたかのように、静かに頷きつつこう答えた。
「そう。それで、旅の途中でガザリア人が薬草のありかをいち早く嗅ぎつけた、との噂を耳にした。それでガザリア人の動きを追ったのだ。彼らの行先には薬草にたどり着く秘密が落ちているに違いないと……だから」
「気に食わないな」
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