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黙りこくって話を聞いていたヴォーグがエスターの話の腰を折った。その茶色い目の奥にはちらちらと炎が揺れている。
「そんなことで、村の長たちをぶった斬り、ガザリア人たちを毒殺したのか」
「……そんなこと、だと!?」
エスターは思わずヴォーグを睨み付け、叫んだ。
「生きるためにしたことだ、お前に何が分かる!」
「分からんさ!」
セヲォンはヴォーグの剣幕に驚いた。
こいつがこんな大声を出すのは、長い付き合いのなかでもそうそうないぞ。冷静沈着で知られるお前が、どうした?
そんなセヲォンの胸中を知ってか知らずか、ヴォーグの声は更に激しくエスターを撃つ。
「お前は確かに悲惨な運命の持ち主だ。だがな、だからといって、罪の無い人々を殺めてどうする! 生きたい、生きたい、と言う気持ちは分かる、が! 罪を重ねに重ねての、何のための命か! 殺戮の理由を父親に押しつけて、それで生きていると言えるのか!」
「うるさい! うるさい!」
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