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エスターも怒りのあまり大声で、ヴォーグに向き直った。
が、体は枷にはめられ自由に動かない。背中の傷もうずく。エスターは自分の無力さに改めて気づき、大きく肩で息を吐いた。さすがに体力の限界が近づいていた。
「ヴォーグ、そこまでにしておけ」
「セヲォン! だが気に食わぬのだ! 俺は、こいつが」
「尋問の機会はいくらでもある。今日はこのくらいにしておけ、見ろ、こいつ、倒れる寸前じゃ無いか。衛兵! 水を囚人に持て!」
扉の向こうの衛兵が水差しを手に現れる。すれ違うように、ヴォーグは、エスターにくるりと背を向け大きな体を牢の外に滑り出した。
「お前の処遇は考えておく、エスター、せいぜいそれまで、おとなしくしているが良い」
セヲォンはそう早口で言うと、ヴォーグの後を追って牢から出ていった。
エスターは、ふたりの後ろ姿を力無く睨み付けるしかなかった。
「どうした? 冷静沈着なお前があそこまで怒鳴るのは珍しい」
セヲォンは廊下を足早に歩くヴォーグに漸く追いつくと、そう声をかけた。ヴォーグは足を止め、肩で大きく息をしセヲォンに顔を向ける。
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