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「俺としたことが、つい、だがな、我慢できなかったのだ、すまぬ」
「謝ることは無い。あの女の罪は重大だからな……わからぬことはない」
「いや……いや……それ以前に哀れで、いや……、俺も変わらぬ……」
先ほどの怒気はどこへやら、ヴォーグの言葉の末尾は消え入らんばかりであった。セヲォンは思わず聞き返した。
「……変わらない?」
ヴォーグは何も答えず、再び足早に大股で廊下を歩いていく。
カツン、カツンと石壁にこだましては遠ざかっていく靴音を聞きながら、セヲォンは意外な面持ちで友の背を見送った。
テセの女王、セシリアは弟からの報告を聞き、思わず長い吐息を吐いた。
「まさか、賊の正体はそんな人物だったとは」
「はい、私も意外でした」
セヲォンは真顔になってセシリアに問う。
「どうします? 姉上。無辜の民もエスターに殺されています。ましてや、ガザリア人の被害者も半端ない。このままでは民も納得しないでしょうし、何よりガザリアから引き渡せと要求されたら、拒否できません」
わかっている、とばかりにセシリアは頷く。
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