第五章 誰がために

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 果たして、薬草園の冷たい床の上でエスターは事切れていた。  冷たくなったその背からは止めどなく血が流れ出、床を伝い、土に伝い……そして……。 「見ろ!」  誰かが叫んで、薬草園中に生えたあの白い蕾を指さした。  いや、もうそれは蕾でも、白くも無かった。気が付けば薬草園の至る所に、血のように赤い、禍々しいまでに赤い花弁が、大きく咲き誇っていた。  その下に横たわったエスターの死に顔の上に、ばらばらと花の種がはじけ飛んできた。 「……セヲォンさま! セヲォンさま!」  セヲォンは我に返った。薬草園からは、すでに兵士たちは退き、セシリアもその場を立ち去っていた。  ひとり残った武官が言いにくそうに、尋ねてくる。 「この賊の死体は、どうしましょうか?」 「聞くまでのことか?」 セヲォンの声は、どこまでもそっけない。 「他の賊と同じように、いつもと同じだ、城の堀に放り込めば良い」 「……よろしいのですか?」 「何度も言わせるな」  武官は慌てて引き下がり、その手はずを整えるべく、下男を呼びに駆け出していった。
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