36人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
果たして、薬草園の冷たい床の上でエスターは事切れていた。
冷たくなったその背からは止めどなく血が流れ出、床を伝い、土に伝い……そして……。
「見ろ!」
誰かが叫んで、薬草園中に生えたあの白い蕾を指さした。
いや、もうそれは蕾でも、白くも無かった。気が付けば薬草園の至る所に、血のように赤い、禍々しいまでに赤い花弁が、大きく咲き誇っていた。
その下に横たわったエスターの死に顔の上に、ばらばらと花の種がはじけ飛んできた。
「……セヲォンさま! セヲォンさま!」
セヲォンは我に返った。薬草園からは、すでに兵士たちは退き、セシリアもその場を立ち去っていた。
ひとり残った武官が言いにくそうに、尋ねてくる。
「この賊の死体は、どうしましょうか?」
「聞くまでのことか?」
セヲォンの声は、どこまでもそっけない。
「他の賊と同じように、いつもと同じだ、城の堀に放り込めば良い」
「……よろしいのですか?」
「何度も言わせるな」
武官は慌てて引き下がり、その手はずを整えるべく、下男を呼びに駆け出していった。
最初のコメントを投稿しよう!