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ざわ。
四人のスター選手たちがコートを去ってから3分が経過していた。
観客たちは明らかな異変に気づき始めていた。
「おい、もう福岡第五の得点どれだけ止まってる?」
「……三星たちが抜けてから2点しか入ってねえな」
コートを五人が駆け回っている。
汗が打ち上げ花火のように噴き出す。それでも五人は笑っていた。
このコート上で一番小さい田中が縦横無尽に駆け回る。
「たなやん!」
既にフリースローラインまで走り込んでいるフォワードの小林が手を挙げた。福岡第五の選手がすさかずマークへ向かう。
小林はにやりと笑った。
田中のパスは小林ではなく、前に陣取る長身の渡辺へと繋がる。
「ナイスおとり、コバ」
渡辺が振り向きざまにジャンプシュートを狙う。
「させるかよ!」
福岡第五の選手は控えでも大きい。にゅっと渡辺の前にディフェンスの手が覆い塞がった。
渡辺が、ふふと笑った。
そのまま、ひょいっと横へボールを放る。後ろから突っ込んできたもう一人のフォワード村上がボールを拾い上げたまま、高く舞った。
「でかした、なべちゃん!」
チームで一番のジャンプ力を誇る村上が、そのままリングに向かってレイアップシュートにいく。
「こいつら、ちょこまかと……」
ゴール下、福岡第五の選手二人が空中でシュートコースを切った。
へへ。村上は口角を上げ、そのままあらぬ方向へボールを放り投げた。
「やるね、むらじゅん」
放られた先には遠く3Pラインで孤立した佐藤がいた。
「さとちゃん!」
「任せろ」
ノーマークから放たれた3Pシュートが、すぱんと音を立ててリングのネットを巻き上げた。
深緑色のタオルを持った観客が思わず立ち上がった。
「……おいおい。倉野高校の方が福岡第五みたいだぜ」
「どれだけ走るんだ、倉野は。選手交代もしてないのに」
試合が始まったばかりのように、コートの隅から隅まで走り回る五人たちに、福岡第五の控え選手たちは完全に翻弄されていた。
抜いても抜いても食らいつかれ、シュートを打たせてもらえない。完璧なはずのディフェンスも、次から次に倉野の五人が顔を出し、きりがない。
たった3分の間に、倉野高校の五人は25点を積み上げていた。
福岡第五 102-68 倉野
「いいペース」
「いや、その前に取られすぎたよ」
「追いつけるかな?」
「無理だろ。でも……」
「うん、あいつらを引きずり出そう」
残り6分。
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