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アリーナが大歓声に包まれた。
それほど、福岡第五の劣勢を観客たちは感じていたのだ。待ちに待った四人がコートに帰ってきた。
三星が髪をかきあげる。
ガソルが大きく伸びをした。
市瀬がコート中を睨む。
如月が射抜くリングを見据える。
「お出ましだ」
小林が笑った。
「またやれる。最高だ」
田中も笑った。
「……あと5分か。むらじゅん、東京の大学行くんだろ?」
渡辺が寂しそうに言った。
「うん。なべちゃんは米子で就職だろ? みんな、この5分が終わればバラバラだな」
村上が寂しそうに答えた。
「最後だね。15年の集大成見せよう。鬼ごっこだ。五人全員で守って攻めよう」
佐藤が四人へ笑みを向けた。
全員、笑った。
「「「「「っし、いこう!」」」」」
誰もが、思った。
また福岡第五が突き放す。ガソルの豪快なダンクが見られる。市瀬のダブルクラッチに酔う。如月の繊細なシュートを拝める。翻弄されるほどの三星のパスを体感できる。
ピッ
福岡第五のスローインが三星へ渡った。三星はドリブルに入ろうとしたところで、経験したことのない違和感に苛まれた。
三星を田中、佐藤、小林、村上の四人が囲んでいる。
「四人、だと?」
さすがにボールを出せない三星に市瀬が近寄っていく。三星がなんとか出したボールを市瀬が受ける。目の前に、また同じ四人が並んだ。
市瀬は狼の目で隙間を探した。5cmでいい。その隙間があれば抜いてやる。
が、市瀬は止まった。さすがに四人に囲まれ、3cmの隙すらない。
「市瀬っ、7秒!」
バスケは8秒以内にフロントコートまでボールを運ばねばならない。
市瀬が苦し紛れのパスを前線へ出す。これを待っていた渡辺が軽々とカットした。
「相手さん、最後の抵抗だな。四人って」
三星が市瀬に苦笑いを浮かべた。
「あっちはスタメンから一人も替わってねえ。最後の悪あがきだろ。あと1分ももたねえよ」
市瀬が舌打ちしてディフェンスに入ろうとした。
ふと、足下に球体の影が見えた。市瀬が頭上を見上げる。その上をボールが通りすぎていく。
「なにっ!?」
隙をついた佐藤の3Pシュートが高々と舞い上がっていた。
ゴール下で見上げるしかないガソルの頭上から、佐藤の3Pシュートが射抜かれた。
福岡第五 102-78 倉野
無邪気にハイタッチを交わしながらも、倉野の五人はそのまま猛然と前へ出てきた。
オールコートの全員ディフェンス。
福岡第五のスター選手四人から汗が滴る。
「めちゃくちゃだ。もつわけがねえ」
市瀬が自分に言い聞かせるように呟いた。
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