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観客はメガホンを鳴らす手を止めていた。しん、と静けさがアリーナを包んでいる。
応援している福岡第五が苦戦しているからではない。目の前で繰り広げられている倉野高校の粘りに感嘆し、動けないのだ。
超高校級の四人が必死に運んだボールを、強靭な体力で倉野がターンオーバーしていく。
「さとちゃん、ナイス!」
奪った佐藤がそのまま3Pシュートの体勢に入る。
「なめんな、マジで」
反応した如月の指が届く。
だが、弾き出したボールに倉野高校が群がる。いち早くボールを取った田中に、一斉に声がかかる。
「たなやん!」
「たなやん!」
「たなやん!」
どこに投げる? 必死に戻る三星、市瀬、ガソルがそれぞれのマークにつくと、田中はそのままゴールへ速度を上げた。
電光石火。
田中は小さい身体を懸命に伸ばし、リングにボールを投げ入れた。
はあ……はぁ……はあ。
コートに福岡第五の荒い息が響き渡る。市瀬は横目でスコアボードを見た。あと1分もすればへばるはずだと見込んでいた。
福岡第五 106-92 倉野
残り、2分。
汗が、伝う。
ふとコートに目を戻すと、スローインを入れようとする三星が囲まれていた。
また、うじゃりと倉野高校の四人がまとわりついている。その表情は、子供たちがボール遊びに興じるような屈託のない笑みだ。
なんなんだ。いったい何が起きている。
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