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ガンッ
ガンッ
ガンガンガンッ
アリーナに音が戻っていた。メガホンを叩く音がアリーナを揺らしている。
それは、福岡第五だけに向けられるものではなかった。
「倉野すげえ」
「歴史的大逆転かも」
いつも外からクールなシュートを放つ如月は、こんなに汗をかいたのは久しぶりだった。
ガソルは、日本ならゴール下は無敵だと思っていた。ゴール下でやっとボールをもらえても、動く隙間すら与えられず、手打ちのシュートはリングに嫌われる。
市瀬は、今まで三星からのパスが来ないことはなかった。わざわざ三星にパスをもらいにいくなんて……。
三星は肩で息をしていた。五人が同時に攻めてくる。こんなバスケは小学校低学年以来だ。だが、強い。
福岡第五 110-99 倉野
時計は、残り1分を切った。
さすがに、五人も疲れていた。息が、乱れる。
「……はぁ、はあ。これ……俺ら……たぶん、だいぶ頑張ってるな」
渡辺が途切れながら言った。ガソルの高い打点めがけて飛び回ってきた。足が、震える。
「ぜはぁ、はあ。……あと、1分。やっちゃおうぜ。番狂わせ」
村上が膝に手をつく。
残り1分。11点差。
手が、届く。
「「「「「っし、番狂わせだ」」」」」
笑顔を見せる五人。
だが、一人の観客が気づいた。
「……倉野のポイントガード……今、太股の裏を触ってた」
佐藤、小林、村上、渡辺は気づいていなかった。
田中の浮かべた笑顔が少しだけ苦く染まっていたことを。
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