忘れられない人

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会釈から顔を戻し、緊張気味に彼を覗き込むと。 気品あるネイビーのスリーピーススーツに、若々しいブルーのネクタイ、爽やかな白のチーフ。 経済雑誌を見て今の姿を知っていたずなのに、本物の彼は圧倒的に格好いい。 「こちらこそ。久しぶりだね」 透さんは前髪を揺らしてうなずいた。 「じゃあパパ、私たちは退散しましょうか」 出会ってものの数分なのに、美砂はそう告げて踵を返した。父も透さんに「よろしくね」と手を振ってそれに続く。 なに? 「お姉ちゃん? お父さん? どこへ行くの?」 私は慌ててふたりの後を追いかけようとしたが。 「沙穂ちゃんは透さんとお食事してね」 美砂に笑顔で押し戻された。彼女はウインクを残し、父と腕を組んでエントランスから去っていく。 受付にいた支配人さんに目をやっても、会釈をされ「中へ」と促されるだけ。私たちがバラけたのに疑問に思われていない。 なにか仕組まれてる? いつまでもエントランスに体を向けていると、背後の透さんが隣にやってきた。 「もしかして聞いてないのかな。俺は今日、沙穂ちゃんとお見合いをするために呼ばれたんだけど」 えっ。いや、聞いてない。 「やっぱり聞いてなさそうだ。美砂も乙羽社長も、サプライズが好きなんだね」
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