忘れられない人

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クラシックヨーロピアンの個室でジンジャーエールを注文し、後はコース料理に身を任せるだけ。その状態で再度、透さんは「本当に会えてうれしいな」とつぶやいた。 もちろんこちらも、会えてうれしくないわけはない。 しかしどう考えても透さんは父と姉の企みに巻き込まれているだけだ。 「あの。父と姉が迷惑をかけているようで、すみません」 「え?」 透さんが気の毒で、しらばっくれる彼に私は申し訳ないと目蓋を伏せた。 だんだんと状況が掴めてきた。 おそらく。仕事で出会った透さんを気に入った父は、彼を私の結婚相手に宛がおうとしている。姉も、仲の良かった透さんが私と婚約すれば万々歳、面白がってお見合いさせようという話に乗ったのだろう。 美砂に婚約者ができてから、ふたりはやたらと私にも相手を見つけようとしつこかった。透さんはそこにちょうどいいタイミングで現れてしまったのだ。いや、悪いタイミングかな。 コンサルタントの透さんにとって、父はクライアントにあたる。そして娘とは顔見知り。 その条件じゃ、父が言い出したお見合いを断れなかっただろう。
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